2007年11月04日

犬くん1

ファイルの最初に、7ヶ月の幸祐のエコーが入れてある。


S大への入学が決まった圭祐は、やり場のない虚しさに毎日襲われていた。


かすみがいない日々。
一生懸命にお乳を吸う幸祐。


自分の子供…離れてより実感は湧いてくる。
3ヶ月…幸祐はどうしているんだろう…。


じいちゃんのように見殺しにされたり、
ありさ姉さんのような、何もかもが手に入るような生活をこれから送るのか…。


いらないモノは人間ですら、捨ててしまう。
殺めるくらい、簡単にしてしまう一族。


幸祐があんな風になったら、
あんな家に馴染んでしまったら…


俺とかすみの子供にそんな運命歩ませない!


バーン!
机を叩いて立ち上がる。


先生
「…茅野?…トイレか?」


圭祐
「ゆっくりトイレです!」


笑い声の響く教室を出た。


トイレに向かいながら考える。

幸祐を奪い返して、育てられるのか。
かすみは今、必死にレッスンをしている。


圭祐
「死んだと思おうって、言ったのは俺なのに…」


トイレの掃除用具入れを蹴った。


圭祐
「幸祐は死んだんだ!」


あふれる涙はとどまることを知らず、頬を伝い落ちていく。
圭祐はふと思い立ち、学校を飛び出し、チャリで突っ走る。

ガッシャーン!



圭祐は町工場の前に自転車を投げ出した。


圭祐
「かすみの父さん!
安曇野さーん!」



かすみの父
「おや、圭祐くん。
また何か作りたくなったのかね?(・∀・)」



圭祐
「木で子熊を彫りたい(`・ω・´)」


かすみの父は笑う。

かすみの父
「だったら先月も、北海道に行ったのに」


圭祐
「木彫りの熊はいりませんから(`・ω・´)」


かすみの父
「かすみとおんなじことを言いやがる(´・ω・`)
それ、そこの廃材から好きな木を選んで、彫ってみろ。
ただし、指には気をつけろよ。
大物トランペッターなんだからな(^o^)」



圭祐は適当な木を拾い上げ、慣れない手つきでのみをかけた。
それから彫刻刀で細かいところを削り、彫ってゆく。



かすみの父
「圭祐くん、そんなに根つめるなよ( ´∀`)」



コーヒーが投げ渡される。


まだまだできやしなぃ…。
コーヒーに一服してまた彫刻に向かう。



夜9時…町工場。

圭祐
「できたぁ!」


かすみの父
「なんだ、子犬さんか」


圭祐
「熊です、こ・ぐ・ま」


かすみの父
「熊は耳垂れてないだろう…?」


圭祐
「さっき削ぎ落としちゃって…(^^ゞ」


かすみの父
「それにこのキツい目じゃ、とても子供じゃないな。
…貸せ!」



かすみの父が目を直してくれた。


かすみの父
「犬くん!完成!」


圭祐
「犬くん…」


かすみの父
「かすみに動物を呼び捨てにすると怒られていたからなぁ。
そういえば進路も決まる頃なのに、連絡がないなぁ。」


圭祐
「そうだね…。
おじさん、ありがとう!」


犬くんをチャリに乗せ、圭祐は家に帰った。


圭祐
「幸祐は、ここにいる」

窓辺に木彫りの犬を飾った。
かすみに似た丸い目の犬。


圭祐
「幸祐、ずっと一緒だよ」


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